ロベルト系、ネバーベント系、ダンチヒ系…。
血統の話になると、このような「系」という単語に巡り合うもの。何かしらの系統を表すことはわかるものの、数が多いだけに何が何だか分からないという方も多いはずです。競馬の長い歴史の中で、いろいろな系統が誕生しそして消えていきました。
そこで現在も活躍する競馬の「系統」とともに、競馬の血統における系統の考え方、また系統による特徴などをまとめていきましょう。
血統図には書かれない「系統」という考え方
血統を見るときに参考にするのが「血統図」。血統表や5代血統図などとも呼ばれますが、いずれも同じものを指しています。
この血統図には基本的には「系統」については書かれていません。つまり、血統図を見て系統が分からないといけないということになります。
まずは「系統」というものの基本を知っておきましょう。
父馬の系統で分けられる
各競走馬の所属する系統は、父馬の系統を見ます。馬の系統は父馬の系統によって分けられています。競走馬の系統を知るには父の系統、父父の系統を遡ってみていきましょう。
サイアーラインを知ろう
競馬の血統の系統は、過去から現在にかけてどんどん進化しています。一例として2021年現在もっとも日本で活躍しているディープインパクトという種牡馬を遡ってみていきましょう。
★ディープインパクト
父 サンデーサイレンス
父父 Halo
父父父 Hail to Reason
父父父父 Turn-to
父父父父父 Ryal Charger
この父馬を系統と一緒に表記してみましょう。
★ディープインパクト
父 サンデーサイレンス【サンデーサイレンス系】
父父 Halo【ヘイロー系】
父父父 Hail to Reason【ヘイルトゥリーズン系】
父父父父 Turn-to【ターントゥ系】
父父父父父 Ryal Charger【ロイヤルチャージャー系】
これを見るとすべての種牡馬が系統になるように見えますが、系統として名を残す種牡馬はごく一部。つまりディープインパクトの父系は非常に優秀な、競馬界の歴史に残るような系統が続いているということになります。
ディープインパクトは、ロイヤルチャージャー系→ターントゥ系→ヘイルトゥリーズン系→ヘイロー系→サンデーサイレンス系と続いてきた種牡馬であり、この系統の連続をサイアーラインと呼びます。
系統を知るには世界的な特徴を知ろう
サイアーラインを遡っていくと、最終的には3頭のサラブレッドに行き着きます。この3頭のサラブレッドを競馬界の「3代始祖」と呼びます。3代始祖に関しては他の記事で触れていきますが、ここでは系統による傾向を紹介していきましょう。
世界的に広まっている競馬ですが、特に歴史が古いのがイギリスやフランスといった欧州と、アメリカ・カナダといった北米です。
同じ競馬ですが、欧州と北米では明確な違いがあり、その地域性から、現代に続く血統系統にも分かりやすい特徴がありますので紹介しておきましょう。
アメリカの血統はスピード能力とダート適性が高い
アメリカの血統の特徴を知るにはアメリカで行われる競馬の特徴を知る必要があります。まずは日本でいうクラシック三冠(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)と同じ意味を持つアメリカクラシック三冠レースを確認しておきましょう。
レース | 馬場・距離 |
ケンタッキーダービー | ダート・1マイル1/4 (約2012m) |
プリークネスステークス | ダート・1マイル3/16 (約1,911m) |
ベルモントステークス | ダート・1マイル1/2 (約2,412m) |
ご覧の通りアメリカクラシック三冠はすべてダートで行われます。さらにアメリカ最大のレース「ブリダーズカップ・クラシック」もダート10F(約2,000m)で行われるように、アメリカの競馬といえばダート競馬となっています。
もうひとつの注目点はそこまで距離の長いレースが少ないこと。アメリカ競馬のこの特徴は、血統や系統の特徴にも表れており、アメリカで活躍する系統はダート適性が高く、スタミナよりもスピードに特化している傾向があります。
ヨーロッパの血統はパワーと芝適性が高い
アメリカと違い、競馬のベースが芝のレースになるのが欧州の競馬です。欧州競馬の盛んな国はイギリス、アイルランド、フランス、ドイツ、イタリアなど。これら欧州で活躍する系統はやはり芝適性が高い血統になります。
もうひとつ欧州競馬の特徴は、芝が長い、そして芝が生えている地盤が柔らかいこと。特に動物愛護の意識が高い欧州では、馬の脚元に負担をかけないよう、クッション性の高い馬場が採用されています。
そのため欧州血統はスピードよりもスタミナ&パワーが重視されており、欧州血統はスタミナと芝適性が高い血統となっています。
世界を席巻した系統が今現在に続いている
競馬のスタイルに明確な違いがある北米と欧州。しかしこの双方で活躍する血統というものも存在します。
後に世界の競馬界を席巻することになるノーザンダンサーはカナダ生まれ。アメリカのクラシックレースのひとつケンタッキーダービーを制した、いわゆる北米血統の馬です。しかしこのノーザンダンサーが種牡馬になると、その産駒は欧州でも活躍。
ノーザンダンサーの産駒であるニジンスキーはイギリスの三冠レースを制し、リファールはフランスのGⅠを制しました。ほかにもヌレイエフやサドラーズウェールズなど、北米血統でありながら欧州で大きな結果を残した血統となります。
こうした芝・ダートを問わず活躍するような世界的な血統が、さまざまなサイアーラインを形成し、現代の競馬界に根付いていると考えていいでしょう。
現在も活躍する主流系統を紹介
非常の大雑把ではありますが、系統の考え方や地域による違いを紹介してきました。しかし皆さんが知りたい情報は、日本の競馬の情報でしょう。では、現代の日本競馬にも残る、主流系統に関して紹介していきましょう。
ターントゥ系
大系統 | 中系統 | 小系統 | 主な産駒 |
ターントゥ系 | ヘイルトゥリーズン系 | ロベルト系 | リアルシャダイ ブライアンズタイム |
ヘイロー系 | サンデーサイレンス デヴィルズバック |
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サーゲイロード系 | ハビタット系 | スティールハート |
ターントゥ系は後に細かな系統に分かれますが、現在日本競馬界を席巻していおるサンデーサイレンスが属している系統になります。サンデーサイレンスと同じ源流を持つヘイルトゥリーズン系からは、ライスシャワーの父リアルシャダイ、三冠馬ナリタブライアンを輩出したブライアンズタイムに続くロベルト系も存在しています。
サーゲイロード系はハビタットを経由し、ニホンピロウイナーなど優秀なマイラーを輩出したスティールハートにつながっています。
現代の日本競馬ではサンデーサイレンスの血が強く残っていますが、一部ダート血統として残っているタイキシャトル(父・デヴィルズバック)もこのターントゥ系ということになります。
ノーザンダンサー系
大系統 | 中系統 | 小系統 | 主な産駒 |
ノーザンダンサー系 | ニジンスキー系 | マルゼンスキー カーリアン |
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ヴァイスリージェント系 | デピュティミニスター系 | フレンチデピュティ | |
リファール系 | ダンシングブレーヴ系 | Alzao モガミ ホワイトマズル |
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ノーザンテースト系 | アンバーシャダイ ギャロップダイナ |
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ダンジグ系 | ディンヒル | ||
ヌレイエフ系 | シアトリカル パントレセレブル |
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ストームバード系 | ストームキャット系 | ワンダーアキュート ヘニーヒューズ |
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サドラーズウェルズ系 | ガリレオ フランケル オペラハウス モンジュー |
1970年代後半から世界中を席巻したのがノーザンダンサーの血です。その系統は多くの支流に枝分かれし、世界中で繁栄をつづけました。
主に日本で活躍したのがノーザンテースト系。サンデーサイレンスが輸入される前の日本競馬では、ノーザンテーストの血が完全に主流であり、その流れで現在でも血統表にノーザンダンサーの血を持つ競走馬が多く残っています。
ただし父系では日本国内産馬ではほぼ途絶えており、現状では輸入種牡馬にこの系統が残っているか、数世代前に血が残っているという状況です。
ナスルーラ系
大系統 | 中系統 | 小系統 | 主な産駒 |
ナスルーラ系 | グレイソヴリン系 | フォルティノ系 | カロ コジーン |
ゼダーン系 | トニービン | ||
プリンスリーギフト系 | テスコボーイ系 | トウショウボーイ サクラユタカオー |
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ボールドローラー系 | シアトルスルー系 | セクレタリアト A.P.indy |
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レッドゴッド系 | ブラッシンググルーム系 | クリスタルグリッターズ | |
ネヴァーベント系 | ミルリーフ系 | River Man プレイヴェストローマン |
ノーザンダンサー系と同様に、多くの支流に枝分かれして世界中で活躍馬を輩出しているのがナスルーラ系です。
日本競馬においてもトニービンからジャングルポケットやベガ、トウショウボーイからミスターシービー、サクラユタカオーからサクラバクシンオーなど多くの活躍馬が誕生しています。
時系列としてはノーザンダンサー系よりもさらに古い系統であり、1960~70年代に日本でもっとも
活躍していた血となります。現状では直系の子孫はほぼ残っていませんが、多くの競走馬の血統表で見かける血統といえるでしょう。
ネイティヴダンサー系
大系統 | 中系統 | 小系統 | 主な産駒 |
ネイティヴダンサー系 | レイズアネイティヴ系 | Mr.Prospector系 | ウッドマン ゴーンウエスト キングマンボ |
エタン系 | シャーペンアップ系 | オグリキャップ |
現在日本でターントゥ系と並んで元気な系統がネイティヴダンサー系です。サイアーラインで考えると、ネイティヴダンサー系→レイズアネイティヴ系→Mr.Prospector系→キングマンボ系というラインで、キングカメハメハ、ルーラーシップ、ロードカナロア、ドゥラメンテが種牡馬として活躍しています。
2021年現在、種牡馬の系統として注目すべきはこの系統とターントゥ系と覚えておけばいいでしょう。
2021年現在日本で活躍する系統
ここまでは競馬初心者の方、中級者の方にはあまり耳慣れない古い馬の名前ばかりを紹介してきました。きっと読者の中には、「そんなことより今現在の話をしろ!」とイライラしている方もいらっしゃるかと思います。ここからは今現在のお話なのでご安心下さい。
まずは2021年11月1日時点の種牡馬リーディングと、その種牡馬が所属する系統をご紹介しましょう。
順位 | 種牡馬 | 種牡馬の父 | 系統 |
1位 | ディープインパクト | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
2位 | ロードカナロア | キングカメハメハ | Mr.Prospector系 |
3位 | ハーツクライ | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
4位 | キズナ | ディープインパクト | サンデーサイレンス系 |
5位 | ルーラーシップ | キングカメハメハ | Mr.Prospector系 |
6位 | キングカメハメハ | キングマンボ | Mr.Prospector系 |
7位 | エピファネイア | シンボリクリスエス | ロベルト系 |
8位 | オルフェーヴル | ステイゴールド | サンデーサイレンス系 |
9位 | ダイワメジャー | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
10位 | ヘニーヒューズ | ヘネシー | ノーザンダンサー系 |
11位 | モーリス | スクリーンヒーロー | ロベルト系 |
12位 | ドゥラメンテ | キングカメハメハ | Mr.Prospector系 |
13位 | スクリーンヒーロー | グラスワンダー | ロベルト系 |
14位 | キンシャサノキセキ | フジキセキ | サンデーサイレンス系 |
15位 | ハービンジャー | Dansili | ノーザンダンサー系 |
16位 | ゴールドシップ | ステイゴールド | サンデーサイレンス系 |
17位 | クロフネ | フレンチデピュティ | ノーザンダンサー系 |
18位 | ジャスタウェイ | ハーツクライ | サンデーサイレンス系 |
19位 | ブラックタイド | サンデーサイレンス | サンデーサイレンス系 |
20位 | ヴィクトワールピサ | ネオユニヴァース | サンデーサイレンス系 |
上位20頭の種牡馬のうち半数の10頭がサンデーサイレンス系と圧倒的な力を示しています。これに続くのがキングカメハメハを中心としたMr.Prospector系の4頭で、残りはノーザンダンサー系とロベルト系が3頭ずつとなっています。
現在の日本競馬を予想するには、やはりこの4系統の特徴をしっかりと把握しておくことがポイント。
そこで、この4系統の特徴を簡単にまとめていきたいと思います。
サンデーサイレンス系
まずは圧倒的な勢力となっているサンデーサイレンス系。サンデーサイレンス系はヘイルトゥリーズンからターントゥ系に遡る血統で、北米競馬で活躍した血統となります。
サンデーサイレンス自身もアメリカクラシックで二冠を達成。最後のベルモントSこそ、ライバル・イージーゴアに敗れ2着だったものの、素晴らしいスピードとパワーが持ち味の馬でした。
産駒にはこの類まれなるスピード、そして瞬発力、さらに早熟性などが引き継がれることが多いようです。
これだけ活躍している種牡馬、系統ですので大きな弱点はありませんが、それでも弱点を探すとやはりスタミナ面の不安が考えられます。長距離レースでやや成績が落ちる傾向にあり、ここが予想の際のポイントとなるでしょう。
また、気性の荒い馬が多いのもサンデーサイレンス系の特徴。気性の影響で実力を出し切れない馬などもいますので、繁殖牝馬との相性などもしっかりとチェックしていきたいところです。
相性のいい繁殖牝馬の系統としては、平均的にレベルが高い馬が出る傾向にあるノーザンダンサー系、スピードを強調できるMr.Prospector系などが好相性といわれています。
繁殖牝馬にもサンデーサイレンスの血、ターントゥ系の血が入っている馬が多く、あまり濃いインブリードは気性面で不安が残るので危険ともいわれています。
Mr. Prospector系
サンデーサイレンス系に続いて好成績を残しているのがMr.Prospector系です。上でも少し触れましたが、2021年現在日本競馬界にはサンデーサイレンスの血が多く残っています。これは種牡馬に限らず、繁殖牝馬においても同様です。
こうしたサンデーサイレンス系の繁殖牝馬の相手として結果を残しているのがこのMr.Prospector系の種牡馬となります。
Mr.Prospector系もサンデーサイレンス系同様にアメリカで活躍した北米血統。想像通りスピードが豊富な種牡馬が多く、仔にもその特徴は引き継がれます。ただしダートに関してはそこまでうまい印象がなく、芝のスピードレースで力を発揮する産駒が目立ちます。
ロベルト系
ロベルト系の特徴は、北米血統でありながら欧州で結果を残していることでしょう。アメリカで生まれたロベルトは、アイルランドで競走馬としての現役を過ごし、欧州の芝レースでも結果を残している馬になります。
この経歴からもわかる通り、ロベルト系の特徴は単純なアメリカ血統ではなく、欧州の重い芝でも戦えるパワーとスタミナです。ロベルトの産駒にはリアルシャダイやシルヴァーホーク、さらにブライアンズタイムがおり、その仔たちもパワー型が多いのが特徴です。
繁殖牝馬を見ると、やはりサンデーサイレンス系の種牡馬と相性が良く、エピファネイア×ケイティーズハートのエフフォーリアは、パワーだけではなくスピードの面も素晴らしいものを発揮しています。
サンデーサイレンス系牝馬と相性の良い種牡馬としては珍しいパワー系種牡馬となりますので、今後の活躍にも注目です。
ノーザンダンサー系
現在ではかなり少なくなってきたノーザンダンサー系ですが、海外から輸入された種牡馬を中心にやはり結果を残しています。
ノーザンダンサーも北米血統ですが、その子孫には欧州でも活躍した馬が多くおり、北米らしい種牡馬というよりは、すべての能力が平均的に高いオールマイティな種牡馬系統といえます。
ノーザンダンサー系はオールマイティな種牡馬が多く、繁殖牝馬を選ばないのもポイント。2021年の桜花賞を制したソダシの母父はMr.Prospector系(母父キングカメハメハ)ですし、マーチSを制したレピアーウィット(父ヘニーヒューズ×母ランニングボブキャッツ)の牝系はナスルーラ系です。
繁殖牝馬の持ついい部分を伸ばすという特徴がありますので、ノーザンダンサー系の種牡馬をチェックする場合は、繁殖牝系の特徴にも注目しましょう。
種牡馬系統による違いを紹介
種牡馬の系統による特徴をまとめておきましょう。あくまでもイメージの部分が大きくなりますが参考にしてみてください。
SS系 | Mr.Prospector系 | ロベルト系 | ND系 | |
誕生国 | 北米 | 北米 | 北米 | 北米 |
芝適性 | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ |
ダート適性 | △ | 〇 | △ | 〇 |
距離適性 | 1600~2400m | 1000~1800m | 1800~3000m | 1400~2600m |
好相性の系統 | ND系 Mr.Prospector系 |
SS系 | SS系 | 問わず |
早熟性 | 〇 | ◎ | △ | 〇 |
※SS…サンデーサイレンス/ND…ノーザンダンサー
非常に大雑把な印象ですが、概ねこのような傾向になります。ただしサンデーサイレンス系に関しては、さらに種牡馬ごとの特徴もあります。
フジキセキの血が入っているとダート馬が多くなったり、ハーツクライの血が入っていると晩成&長距離傾向に出たりなどの特徴もありますので、細かな特徴は種牡馬ごとにつかんでいただければと思います。
血統が学べるアプリ
血統、特に系統に関してまとめてきましたが、当然ながらこの記事で書ききれるものでもありません。血統をしっかりと把握するにはより深い知識が必要となりますので、いろいろなツールで勉強しましょう。
血統に興味がある、スマホなどで手軽に学びたいという方には、血統を学べるようなスマホアプリも存在します。アプリによって勉強しやすいアプリ、予想の参考にしやすいアプリなどがありますので、自分に合ったアプリを選んでみましょう。
まとめ
競馬はブラッドスポーツ。100年以上にわたり、世界中のホースマンが最高の血、最強の血を求めてきた歴史が積み重ねられ現在に続いています。
血統の知識がない方からは、「結局どの血統が最強なの?」と聞かれますが、これには明確な答えはありません。レース条件にもよりますし、繁殖牝馬との関係性もあり、ひとつに決めることができないからです。
もちろん、競馬の血統が今なお進化を続ける分野であることも、最強の血統を決定できない理由の一つ。そんなロマンあふれる血統学、血統理論が気になった方は、少しずつ、自分が気になる血統から調べてみるといいでしょう。